研究概要
私達のグループでは自然界の様々な場所で機能材料として利用されているタンパク質集合体に着目し、そのエンジニアリング、精密構造解析、計算機設計と分子動力学法による機能解析を進めています。精密に動く分子機械、天然を凌駕する人工酵素、さらには、精製も不要、かつ安定に標的タンパク質を保存する分子カゴ等々、ラボメンバーのユニークなアイディアにより、バイオテクノロジーやエネルギー問題を解決する革新的な機能性タンパク質材料が次々と生み出されています。
タンパク質集合体は、複数のタンパク質が自発的に集まり、複雑かつ精密な集合体となる「自己集積反応」によって作り出されています。天然では、この集合体の表面や内部空間に形成される特異な化学反応場を使って、人工的に困難な多くの化学反応が促進されます。 細胞内は種類の異なる生体分子が高濃度で存在する環境にもかかわらず、如何にしてこのような精密な集合体が形成されるのでしょうか?これらの疑問の解明から、針状、カゴ状、格子状等、様々な構造をもつタンパク質集合体を人工的に作り出し、ワクチン開発などにつながる生体材料の応用研究を進めています。
近年、多くのタンパク質の反応や構造の制御に、金属が大きな役割を果たしていることが次々と明らかにされています。 私達のグループでは、タンパク質集合体が作り出す分子空間が金属の反応性を精密に制御することに着目し、その解明を進めています。金属が関与する生体内反応の理解を深めることにより、有機溶媒中でしか実現できない反応を水中で触媒する人工金属酵素の開発や、天然では使われていない金属反応の生体利用も実現してきました。現在は、新たな生体機能材料の創成へ向け、人工光合成や、貴重な微量金属回収を実現する分子ツールの作成にも挑戦しています。
高分解能構造解析による原子レベルの分子構造決定が実現していますが、タンパク質の集合化や化学反応の動的プロセスを直接捉えることは未だに困難です。 我々のグループではX線自由電子レーザや高速原子間力顕微鏡を代表とする最先端の計測手法を駆使することにより、ナノ秒・Åレベルの化学反応から、ミリ秒・ nmレベルのタンパク質集合化反応まで、タンパク質集合体が関与するあらゆる時間・空間スケールの分子反応の全容理解を目指しています。一方、タンパク質集合体の設計や反応機構の解明には計算科学が不可欠となっています。メンバー自らが、本学スパーコンピューターTUBAME3.0を駆使してその解析を進めています。